MJ

2004年上半期ベスト

 一応、出してみたけど、今回はちょっと小説が不作だったかも。いや、それぞれは水準、またはそれ以上だったりするのだが、「忘れられない作品」と言うほどのものがそれほどはなく、小説として5つ挙げるに留まった。

…今さら高橋源一郎で済みません。ずっと敬遠してて読んでなかったんで。それと、『お母さんの恋人』は、衝撃度ナンバーワン、かな。なんと言っても、街の設定がいい。勢いのいい濁流が町をふたつに分断していて、しかも、その間に通っている橋は一本、しかしその橋は複雑怪奇に交差していていつも渋滞している。こんな妙な設定で始まる青春物語と恋愛物語。甘くないのがまたいいです。『スペシャリストの帽子』は、女子必読書と思えますし、読書会までやって話し合った結果、男子は情けない男子にこそ萌える、という意見も出て、大いに頷いた次第。


 『ザ・フィフティーズ』を読むと、アメリカって本当に若い国家なんだなあ、と思います。そして、この時代(1950年代)に国家らしい形を作り上げてるのね。政治、テクノロジー、経済、文化、いろいろな面で、そしてお互いが影響を与えながら、発展していっています。戦争にまつわるエピソードもかなりの割合が割かれてるのだけれど(冷戦も込み)、本当にばかばかしいことにエネルギーを費やしていると思うし、これを読んだらイラクの問題だって出てこないと思うんですけどね。ブッシュ、この本を読みたまえ。良くも悪くも日本はこういう国に影響を受けてきたんだということが分かる本だと思います。これが分厚い三部作とは言え、文庫で出ているのは素晴らしい。

 『回転銀河』は、あちこちでちらちら名前を見ていたのだけれど、表紙の色の美しさに参って購入。で、読んでみたら粗方は「One more Kiss」に掲載されていた作品だったのね。あまり作者とか作品の名前を注意してみてないから、全然分からないのですよ、こういうときに。で、恥ずかしいほど初々しい話で、普通の高校生の話のところがいいです。今の高校生はこんなんじゃない、と言われるかも知れないけど、自分たちの頃を思い出す、ということで。っていってもうちは女子高だったけどね。こういうのを読むと共学校が羨ましくなる。

 『文学賞メッタ斬り!』は、おなかを抱えて笑いました。率直に語り合っている(?)のもまた良し。しかし、こういうのを読むと、駄目な作品もチャレンジしたくなって困りますね。これが出たのは、ある種事件だったと思います。

 『女ひとり寿司』は、話題になっているのかいないのか分からないけど、期待しないで読んだらとても良かった一冊。味覚の表現が豊かで、人物観察の面もあって、私の好みにぴたりと合いました。行ってみたい寿司屋もいくつかあるので、そのうちチャレンジする予定。ひとりじゃなくて済まんけど。

 『編集狂時代』は、巷でお馴染みの、筑摩書房の取締役さんね。今はタイム・ブックタウンというデジタル貸本屋を運営している会社の社長でもあります。若い頃に遊びながら、しかし、ちゃんと仕事に生かしてきたという超羨ましい人でもあります。自慢という訳ではないから腹が立つようなことはなく、「ああ、この場に居合わせたい」と真剣に思うのみでした。路上観察会とかね。しかし、こんなに許してくれる会社は他には無いと思う(笑)。

 『嘘つきアーニャ〜』は、少女時代に机を並べ勉強した友達が、今はどうしているか会いに行くという話で、三人、それぞれが思い出と現在の描写とで構成されている。米原さんがロシア語通訳になった経歴を知らなかったけれど、その昔、お父さんが共産党員で、プラハに派遣されていたのね。で、そこのソビエト学校(ソ連が各国に作ったものらしい)で学んだ人たちなので、みんな共産圏で中欧の出身。それだけに、冷戦時代が終わり社会主義国共産主義国が崩壊していく中で、国家に人生を大きく関与されてしまった人たちとも言える。私たちのようにのほほんと暮らしている人間では想像も付かないこともいろいろ。遠い国での出来事が、急に身近に思えてきます。ソビエト学校に各国から集っていたところを見ると、資本主義圏に対する共産主義圏としての「ソ連」という存在の大きさを感じさせられます。

 私は以前から酒井さんのエッセイを読んでいたので、この本を出したときも「ああ、またこんなの出してきたのね」という程度の感想しか持っていなかった。しかし、彼女の名前をキーワードに訪れる人が引きも切らさずの状態で、何だか未だに話題になっててすごいですねえ。ここで書かれていることは彼女がよく使う手法なので何とも思わなかったけれど、人によっては「自分のことを棚に置いて」と怒る人もいるみたいですね。読まずに周辺の噂や議論だけで反応している人も多いし。

 えーとまあ、こんな感じです。