MJ

「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」ASIN:B00007GR7W

nijimu2003-02-28


東京国際フォーラム フォーラムC ジャパン・プレミア試写会にて

 実は、ディカプリオの出演する作品は観るのが初めてだ…と言うと一様に「え!「タイタニック」観てないの?」と驚くが、「だって、三時間もかかるし、どうも食指が動かなくて」と言うと納得する。うーん、そういうものなのだろうか?

 この原作で十分面白かったので普通に作ってもいい作品になるだろうと思ってたのだけれど、これまた意外、この作品、十数回映画化権が買われていたが一度も実現していなかったのだそうだ。で、今回ドリームチーム鳴り物入りで映画化達成、と。果たしてどんなもんなのか興味津々。原作(と言っても実話だが)がいいと映像がそれに負けちゃうのかな。

 冒頭はいきなりフランスの刑務所。私が想像していたのは穴蔵に鉄格子のような前時代的な舞台だったのだけれど、思ったよりも普通の外見だ。だが、中身は湿気がひどく中に入っているフランク(ディカプリオ)は息も絶え絶え。あの格好で「助けてくれ」と哀願されたら、そりゃ「騙されてるんじゃないか」と疑いつつも、つい油断しちゃうよね。なんとこの直後に介護室から逃げ出すのであった。鉄格子の向こう側で囚人たちはやんやの喝采。しかしフランクは熱と体力低下でフラフラで、簡単に看守たちに捕まってしまう。

 この掴みは確かにうまいなー、と思った。この後も時系列はかなり無視して入り組んだストーリーが展開される。原作のいろいろな要素をうまく切り捨てて話を整理しているような印象がある。あと、映像がきれいだなあ、と思った。空港を闊歩する偽パイロットと偽(本人たちは見習いだと思っている)スチュワーデスの鮮やかな色と生命の躍動感。FBIに追いつめられ、自分が主役の婚約パーティから逃げ出す前に愛する恋人に正体を打ち明ける場面──。

 それと、原作には無い味付けが「親子愛」みたいなやつ。単なる勘当ではなく両親の離婚とそれにまつわるあれこれに傷ついた一人息子が家を飛び出す格好。だから、何かある度に父親に近況を知らせ、出世したとぱりっとした格好で一緒に会食する。とにかく、自分は大丈夫だから安心してくれ、というメッセージを伝えたいのだろうし、また、自分がこれだけ立派になったという姿を見せて感心させたかったのだろう。彼にとっては父親は尊敬の対象であり、それと同時におそらく、乗り越えなければならない存在だったのだろう。そんな息子を見て父親は、少し悲しそうな顔をする。

 大体、普通高校もまともに行っていない(家でしたときに16歳だった)息子がいつの間にかパイロットになっていたり、かと思えば弁護士へと華麗なる転身をしていたりなんて、まともな大人だったら本気にできないだろう。世間知らずとそれを切り抜ける賢さが同居したフランクというのは非常に危なっかしく、綱渡り状態で毎日を過ごしているのが透けて見える。

 一方、フランクを追いかけるFBI捜査官ハンラティ(ハンクス)とも奇妙な感情が芽生えてくる。毎年クリスマスに電話をしてくるフランクに彼は「おまえ、本当は話す相手も無くて寂しいんだろう」と図星を突く。怒りと戸惑いでフランクは電話を切るが、その通り、彼はいつ追いつめられるとも分からない逃亡生活の中で、どんなに贅沢で享楽的な日々を過ごしても空しさを感じるのだ。役者としてはさすが年の功、ハンラティの方が一枚上手で、フランクを最終的に捕まえるのに成功する。そしてその後のふたりの関係はさながら疑似親子で、この関係がとても微笑ましい。こういうのを見てると「人は一人で生きてるんじゃないんだなあ」と思うよ。結局は相手をどこまで理解しようと努めるか、信用するか、ということなのだろう。信用できなきゃ最初からそんな関係を結ぶべきでは無いとも言える。

 おそらく、ここで扱われている小切手詐欺は、1960年代だからできることであって、これだけオンライン化が進んでいる現在では通用しない手口*1なのだろう。しかし、詐欺と逃亡に使ったその頭脳を駆使し、今では社会人として立派に成功しているという本物のフランクを知るだけに、「やり直しの効く人生」というのはあるんだなあ、と思う。まあ、彼の場合は殺人も犯してないし、携わったのが恐ろしいほど早い時期(何たって16歳から19歳だ)だったのが功を奏しているのだろうけれど。

 全般的に、娯楽映画としてよくできた作品だと思う*2。華麗なるキャストとスタッフは決して無駄遣いされていない。

 目に止まったのは以上のようなところと、主要人物ふたりの名前の読み辛さ。アバグネイル(原作ではアバネイル)とハンラティ。何度も読み間違えられてうんざりしながら訂正したり。それと、離婚した母親のところ(これがまたすごくて、夫の親友と結婚し、破産時に手放した家をまた手に入れているのだ)に訪ねてきたFBI捜査官に「フランクが何をしたって言うの。詐欺をしたお金くらい代わりに私が払うわ」と財布を開いたところ「600万ドルですよ」と告げられ唖然とする場面、ある職業人を演じるにはそれを描いたドラマや映画しかなく、食い入るようにそれで勉強して演技を披露するが空回りする場面(「予備審問ですよ」と裁判官に呆れられるほどのオーバーアクション)などなど、くすぐるところは散在している。

 ところで、夫は前半まるまる寝てしまったために、彼が見たこの映画は「ディカプリオはなーんも悪いことしてない!」のだった。前半部分に華麗な詐欺の手口は披露され、後半は専ら逃げ回る場面。そういうことなんですね。観に行かれる方、くれぐれもお気をつけあれ(普通、そんな人いないと思うけどね)。

 派手なアクションも感動を呼ぶ名シーンも無いけれど、「どうだった?」と聞かれればやっぱり「見て良かったよ」と答えると思います。今回は原作との差異などが中心になってあまり内容は語ってないけれど、このスタッフとキャスティング、そして派手な宣伝を見ればおそらく見る人は確実に見ると思うしね。初めて見たディカプリオの演技は、思っていた以上にうまかったのでびっくりしてます。童顔のために10代後半を演じたのもしっくりきてるし、何よりあの愛嬌のある顔が未熟さを感じさせるんだよね。で、決して美しいとは言えない個性的な顔が見る角度や場面によって違った陰影を与え、様々な「顔」を見ることができる。トム・ハンクスは落ち着いた演技で、年よりも上に見えたのは演技なのか地なのか、夫と私の間で意見は分かれたままだ。mauさんがしきりに言っていた大フランクのクリストファー・ウォーケンは、油を絞りきったような枯れた容貌とそれとは裏腹に生き生きとした青い目が印象的でした。

「原作の感想」→http://d.hatena.ne.jp/nijimu/20011205#p1