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斎藤美奈子『趣味は読書。』ISBN:4582831427

 出版不況と言われる中で突如出現する「ミリオンヒット」。しかし、周囲ではそれらを「読んだ」という人に会ったことがありますか?無いでしょう。だって、「本を読む人」自体が現在では少数民族なんですから。そんな中でこういった本はどんな人が読んでいるんだろうか、ということを想像しながら読んだのがこの連載。連載自体が平凡社という、比較的少部数の良質な書籍を出版する会社のPR誌で行われたもので、その辺りでいろいろとねじれ現象が起きてたりもするのだけれど。

 まあ、スタンスで言えば先日リニューアルするまでの「AERA」で連載していた雑誌批評コラムの書籍版。想定読者がある程度高年齢の、教養がありそうな人々ということで「モー娘。」や「つんく」に関しては必要以上に説明がくどくなっているのはご愛敬。筆者自身語っているが、この「百万の読者(=ミリオンセラーの読者)」というのは「趣味は読書です」と何の衒いもなく自己紹介してしまうような「善良な読者」によって支えられているのだ、と看破する様は見事としか言いようがない。この人は、特定の雑誌や書籍を批評させるよりも、こういった一連のムーヴメントについて分析した方がずっといいこと言うよなあ、と感心する。我々webで高踏遊民を気取りながら批評なぞをひとくさりする人種については「邪悪な読者」と呼んでいるが、最後には彼女自身もどちらかといえば「邪悪な読者」であることを認めているのだね。

 でもって、筆者による代理読書で、今まで確かに「時間がない」と言って読むのを避けていた(または、後回ししていた)いろんな本がどういうものか分かってちょっと気分が良くなった。「ああ、やっぱり読まなくて良かった」ってなもんだが、偶に自分が読んだ本が入ってたりすると途端にこの印象は変わってくるんだけどね。所詮は私たち「邪悪な読者」も、一貫してそう言う態度を取れるわけではないってことかなあ。
 紛れもなく、世の中にはそれほどの冊数は読まないけど「感動」のために本を読む人々がいて、そしてそういう人たちが世の経済活動を支えているのは確かだよなあ、と再認識、そして反省した本だった。いくら「どうでもいい本ばかり出ている」と文句を言ったとしても、「邪悪な読者」のような少数民族では、出版業界は生きていけないのである。まあ、我々にできることは、世界の片隅でぶつくさ言っていること、それだけなのであろうね。

 筆者が題材にあげている『チーズはどこへ消えた?』と『バターはどこへ溶けた?』の段で、この二冊が売り上げた部数と反響に関してコメントしているが、「チーズ」360万部に対してあからさまなパロディの「バター」は30万部であり、この相対数が「善良な読者」と「邪悪な読者」の割合比ではないかとの指摘は、結構当たってるように思う。