MJ

ティム・ボウラー『嵐をつかまえて』ISBN:4560047553

 「覆水盆に返らず」。だったら、その現実を見据え、どういって生きていったらいいのか。そういう選択こそが、人間性を際だたせるのだ。

 ある夜、兄弟での留守番を頼まれたというのに、長男のフィンは友達の家に遊びに行っていた。だって妹が「大丈夫だ」って請け合うし。しかし、その間に妹は誘拐されてしまった!あのとき、僕さえちゃんと家にいたのなら…。

 自らの軽率な行動で大変な事態を招いてしまったと反省するフィンは、自力で妹を助けようと必死になる。家族共々藁にもすがる思いというのは洋の東西を問わないのね。ちょっとオカルトめいた要素が要所要所に出てくるのだけれど、実際の事件の解決はきちんと人間の手で行われるので、あまり胡散臭さは感じない。
 この事件と平行して、末息子のサムの、どうやら「見えない友達」による奇行が顕著化するのだけれど、この不気味さがちょうど事件の解決とほぼ同時に解決するところなども、なかなかうまくできていると思った。

 とはいえ、ここで語られているのはこういった要素を組み合わせた「家族の物語」で、今までのものが破壊された後にどうやって修復していくか、それは個人個人もそうだし、家族という集合体としても、だ。元通りに、とはやはりいかない。それを経験してしまったのだから。だからこそ、一歩大人になって何かを乗り越え、違った形での絆を模索していかなければならないのだろう。勿論、これはお互いが真摯でなければできることではない。うまくいって欲しいな。