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渡辺満『なぜ人はジュンク堂書店に集まるのか』ISBN:4426765013

 著者は、立ち上げ時からジュンク堂書店の経営に携わり、長いこと総務部長を務めた人物。どうやら、退職したところで自分を通じて見たジュンク堂書店を書きたくなったようだ(ホントは違うかも知れないよ)。

 ジュンク堂書店という書店は、以前は遠い存在でしかなく、何故かといえば神戸に本社があり、東日本には存在しなかったからだ。これは実は東京進出後も実はそれほど変わりが無く、あまり縁がない池袋にあるから、かも知れない。しかし、二度ほど訪れてみてなるほど「ジュンク堂に無ければ(リアル)書店、どこを探してもない」とまで言われる訳が分かったような気がした。とにかくフロアの広さというものに圧倒されるし、並んでいる書棚がまるで図書館のようだという印象もある。棚は、少し斜めに傾斜していることで、倒壊や本の店頭を防止する目的もあるのだろう。店内で行われるイベントも盛んで魅力的だ。渋谷の書店が今ほどに展開しなければ、こちらまで足を伸ばしていたかも知れない。

 この本を見ると、いかにジュンク堂が勢いのある書店か、その魅力とその理由が余すことなく伝わってくる。店の様子を思い出しながら、なるほどこういう風なコンセプトで作られているのだな、と感心しながら読んだ。万引き犯との攻防、周囲の書店への気配り、そして、本拠地で起きた阪神淡路大震災……。本当に、ここからの飛躍が大きかったんだな、ということを改めて思い出した。以前、仙台に出張に行ったらそこにまでジュンク堂があって驚いたんだった。

 結局、並みいる同業者の中で突出するには「オンリーワン」であることが大切なのだろう。横を見ながら、ではなく、まずは自分はどうしたいか、この会社はどのようにあるべきか、そこからの判断。それが、「フォーカス」販売に踏み切った理由にもなるのだろう。

 勿論、ここで語られていることは当たり前のことながら大半が成功したことだ。その裏にはまだまだ表に出せないようなことがあるのかも知れない。でも、こうやって「この書店が突出している理由」を具体的に提示できることは、やっぱり素晴らしいと思う。読んでいて非常に楽しかった。

 とはいえ、この書店の魅力は多くはその創業者でもある社長が担っている。個性的な会社にはこのような場合が多いだろう。理想を掲げ、一方現実的な能力も持ち合わせた経営者、それが会社の理想的なリーダーには必要な条件なのだろう。そういった人を見つけることも、「誇れる会社」で「誇れる仕事」をする第一歩なのだろうな、と思う。我が身を振り返っても、やはり嫌いな会社の仕事を一所懸命する気にはなれないもんな、と思うもの。

 最後に、今となっては大きな組織となったジュンク堂書店のこれからの行く末を案じているようだが、おそらくそういう社長について行く優秀な社員がいるうちは、そうそう変わるものではないと思う。それにしても、全国店長会議などは無いというのには驚いた。今ではテレビ会議やwebでのメイルのやりとりなどで結構遠隔地で直接顔を合わせずとも打ち合わせはさほど難しくなくなってきたが、創業時からずっとそうだったというのは、よほどの信念が無いとできないことだと思う。その他、色々な工夫は「たまたまこの組織に合っていた」のであって、そのまま取り込んでも失敗することも多いだろう。それでも、こういったケーススタディをいくつも見られると面白いのにな、と思う。