MJ

阿部和重「馬小屋の乙女」

 えーと、『シンセミア』に続き、神町サーガを書きつづっていく、と考えていいのだろうか。

 トーマス井口なる男が、東京で店の客から「ここにならある」という情報を聞いて、わざわざ神町までやってきた。というより、天童駅で降りるつもりが寝過ごしてしまったのだ。この男、何しに来たかというと、古物商のところにあるという「89年型しびれふぐ」を買いに来たのだ。彼は、熱心な性具コレクターなのである。

 この名前からしてふざけている。その旅の動機もふざけてる。そしてまた、全体を覆う真面目に間抜けな雰囲気はまさしく阿部節。この寂れた店で、奇妙な二人組に出会うのだが、そこから奇妙な異世界に連れて行かれる。といってもSFではない。本当に訳の分からない展開になるのだ。

 えーと、このタイトルはどういう意味なのでしょうか(笑)。『シンセミア』単行本の表紙のような純真無垢(に見える)少女でも出てくるのかと思えば、ここで出てくる女性といえば、駅前でたむろってる制服姿の女子高生と古物商のところで出会ったよぼよぼの老婆のみ。

 ひとまず、年の初めということで、何かの可能性を感じさせる作品といっていいのでしょう。これからも、一見B級の不気味な作品を書き続けてくれることを願ってます。もっと凄いのを期待してますから。

  • 掲載:「新潮」2004年1月号 p.62〜68